あなたがいたら ~16~ 

bububububu…

その振動する携帯電話の持ち主であるタマがディスプレイを確認すると、そこには“邸”と表示されていた。

時刻は12時を指していた。定時連絡かとタマは尊とつくしに断りを入れて特別室内にある別室へ移動すると応答した。

「タマさん、先程坊ちゃんがお戻りになられたのですが、昨日同様牧野様をお探しになられております。ご指示通り知らぬ存ぜぬをつき続けておりますが、タマさんを連れて来いと…その…。」

言い淀んだ執事長の言葉から、続きの言葉は容易に想像がついた。

「暴れてるんだね。」

「いえッ、…いや…はい、そうです。」

タマの直球の言葉に執事長も認めていいのか、他に言い方はないのか思案するも思いつかなかったのだろう。結局は暴れているのが事実なのだから。

「全く困ったもんだね…。わかったよ。今からいったん戻るからそれまで頼むよ。」

電話を切ると、タマは盛大なため息をついた。
そして気持ちを奮起させてつくしと尊の元へ戻ると、尊だけを話があると言って呼び寄せた。

「邸からの連絡で、坊ちゃんがつくしを探してるようなんです。あたしは今から戻って宥めて参りますので。」

「そうか。本当は俺が行って首に縄でもつけりゃいいんだろうがな。」

「わかってますよ。今旦那様が現れたりされたら、勘のいい坊ちゃんの事です。つくしと旦那様の繋がりに気づかれてしまうでしょうからね。」

「ああ。悪いな。」

退室しようと背を向けたタマに向かって、尊は励ましと感謝の気持ちを口にすることしかできなかった。

「タマ、くれぐれも無理はするなよ。」


***

タマが邸に戻ったのはあれから20分後の事だった。

国宝級の美術品が邸内の至る所に飾られていたが、それらは既にタマの指示で厳重にしまわれていたため、被害額は抑えられたが、それでも手負いの警備の者たちを見ると相当暴れた事は容易に想像がついた。

そして、タマの帰宅を心待ちにしていた執事長がタマの姿をみとめると邸内だというのに駆け寄ってきた。

「全く執事長のあんたが走るんじゃないよ!」

「うッ…申し訳ございません。もう、私共では坊ちゃんをお鎮めすることができず。」

「で、坊ちゃんは今どこにいるんだい?」

「はい、東の角部屋でタマさんをお待ちです。」

「そうかい。じゃ、ちょいと行ってくるとするかい。」


邸内は、司がつくしと出会う前のようにすっかり活気を失い寒々と感じられた。
本来一流の調度品に囲まれた優美な空間であるはずなのに、まるで監獄の中にいるような気持ちにさせられるのは、それほどこの邸の主人が荒んでいる表れなのだろう。

トントン

タマが司の待つ東の角部屋へ入ると、虚ろな表情を浮かべた司がジロリとタマに視線を走らせた。
産まれた時から司の成長を見てきたタマさえもゾクりと背筋にいやな汗が伝うのが分かった。

「お呼びですか、坊ちゃん。」

「一体どんだけ待たすんだよ。この俺様を。」

司は苛立ちを露わにタマに凄んだ。
タマは負けじと曲がった背筋をピンと伸ばして立つと、司の目を真っすぐと捕らえた。

「そんなにこのタマにお会いになりたかったとは嬉しくて涙が出ますね。」

挑戦的なタマの態度にイライラがピークに達した司は勢いよく立ちあがると、その長い脚であっという間にタマの前に立ち、その胸倉を掴んだ。

「ざけんなよ。おめぇに会いたかったわけじゃねえ。あのおかっぱ女はどこへ行った?」

例え胸倉を掴まれてもタマは怯まなかった。

「おかっぱ女とは一体だれのことですかい?」

タマの強い視線に、司はあることを悟った。

「おまえもかよ…」

「おめぇも他の使用人のようにあの女を俺から隠すのかッ!?」

そう叫ぶと、掴んでいたタマの胸倉をパッと離した。
バランスを崩して床に尻もちをつき、咽こんでいるタマを一瞥すると、

「暫くメイプルに泊まる。」

そう言い残して部屋を出て行った。

タマは、司が叫んだ時、一瞬だけ輝きを失ったあの目の奥が泣いているように見えた。

「坊ちゃん…」





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4 Comments

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2017/07/26 (Wed) 13:16 | REPLY |   

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2017/07/26 (Wed) 16:42 | REPLY |   

きぃ  

kac〇〇さん

こんにちは。
タマさんご高齢なのに無理させてとんでもない坊ちゃんですよね。
本来の司は彷徨っていて、抜け殻の司は現在迷子です。
本来の司は父親に似て一途に人を愛せる男なので、早く元に戻って欲しいですね。

2017/07/27 (Thu) 13:42 | REPLY |   

きぃ  

ず〇ださん

こんにちは。
現在の司は一番大切なものが欠けて司であって司でないですからね。
愛を知らない司の彷徨う心の放浪記も終盤にかかってきました。
もう少しこの司にお付き合い下さい。

2017/07/27 (Thu) 13:47 | REPLY |   

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