あなたがいたら ~20~ 

スウィートルームの名に恥じない一流の調度品が飾られ、多くの著名人をもてなしてきた美しかったはずの部屋は今、脱ぎ捨てられた女性物の衣服やブラジャー、ショーツまでがあちらこちらに散乱し、部屋のあちこちに何本もの酒瓶が倒れて地図を描いていた。それだけでもむせるようなキツイ臭気だというのに、たばこの匂いも合わさりこの部屋まるごとむせかえるようなシガールームと化していた。

そして、声が聞こえる寝室に足を踏み入れ、楓と西田は目の前の光景に言葉を失った。
これまで海千山千の古狸相手に数えきれないほど多くの修羅場を潜り抜けて来た。その中には眉をひそめるような事も多くあった。しかし今目にしている光景はその比ではない…。それはその中心にいるのが自分がお腹を痛めて産んだ息子だからだろう。

初めて息子をこ目にした時は、待望の跡取りである長男と言う事もあったが、何より10か月もの間自らのお腹の中で育み続けた分身のような存在との待ちに待った対面だった。椿の時にも勿論思ったが、やはり命に代えても守りたい愛しい存在だと思えた。それが今18年経ち、こんなにも変わってしまったなんて…。
あの時同様、産まれたままの姿で大の字になってベッドの上で仰向けになっている息子は、当然赤ちゃんの頃とは大きく成長を遂げている。だが楓にはその身体的変化ではなく、瞳からあの赤ちゃんの頃のようなキラキラとした輝きが完全に失われてしまっている事にショックを禁じ得なかった。


「おばさんとおっさん、勝手に入ってきてなんなわけぇ?」

「ジロジロ見てんじゃねぇよ!」

「まさか…プッ…ハハハッあんたもデリヘル嬢!?」

「あっはははっは…ありえなーい!」

「あ!でも熟女好きとか?だからあたしたちに反応しなかったのかも。クスッ」

「ついでにおっさんもお?クスクスクス…ヤバ過ぎッ!!」


西田はデリヘル嬢達の頭を抱えずにはいられない話を眉間にしわを寄せて聞いていた。さぞかし楓様も…と思いながら視線を走らせると、楓様は予想外に真顔のまま立ち尽くされていた。

かえで…さま?



「……う、……ちょ…、しゃ……社長!社長!」

わたくしとした事が茫然自失となってしまっていた。

「大丈夫でございますか?」

「えぇ。」

全く、いい年をした息子の全裸をみる事になるとは夢にも思わなかった。


西田は楓の様子を汲み取り、何も言わずに落ちてしまっている毛布を司の身体の上にかけ、10人のデリヘル嬢達を寝室から退出させ着替えさせた。

そして電話を一本かけ、15分後現れたのは道明寺の顧問弁護士3名と医師と看護師。
その弁護士達がデリヘル嬢達の身元を一人一人確認し、口外しないと念書を書かせ、口止め料を支払い帰らせた。

医師と看護師は司の診察を始めた。
瞬き一つせず、焦点のあわない瞳、脱力した身体から、楓と西田はよからぬ薬に手を出したのではないかと危惧していた。医師と看護師もそれを疑ったが、身体には注射痕はみあたらない。だからといってそれで安心できるわけではない。他にも吸入方法はあるのだ。
司は外に待機していたSP名によって担ぎ上げられ秘密裏にメイプルを後にして、先日までつくしが入院していた病院へ運び込まれた。

知らせを受けたタマも慌てて病院へ駆けつけると、そこには憔悴した様子の楓が診察室の前で手を拝むようにして座っていた。

「奥様。」

タマの呼びかけにチラリと一瞥すると、楓は再び視線を正面に戻し口を開いた。

「司が刺された時…あなた言ったわね。」

タマはその言葉に、あの病院での事を思い出した。

『坊ちゃんが今生きているのはうくしのおかげに思えてしかたないんです』

「本当に、あなたの言う通りだったわ…。」

そう言った楓の瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
司が危篤となったあの瞬間でさえ取り乱さずにいた楓が泣いている事にタマは驚きを隠せなかった。

「奥様…」

なんと言ってさしあげればいいのか。
タマは続きの言葉がみつからず、代わりに楓のひんやりと冷たい手を、しわくちゃの手で力いっぱい握りしめた。





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恋説 ~15~ 

ここから先は、きいには珍しく大人なお話になっております。
そうしたお話が苦手な方、年齢に満たない方はご遠慮下さい。

そして、普段Rなお話を書かないのでという言い訳を前置きしつつ、稚拙な表現ばかりでお恥ずかしいですが、よかったら読んでみて下さい(汗)


*****

「んっんん…あぁぁ」

やだ、あたし、なんて声出してんの!?

でも、漏れちゃう。

なにこの感じ。

「イイ声だ、もっと聞かせろ」

司がつくしの上に跨り耳元に顔を寄せるとバリトンボイスで囁いた。

そしてその唇で耳から首筋を這うように入念に愛撫され、その間も専務の両手は私の小さな乳房をやわやわともみしだきながら、その頂きを執拗に刺激し続けている。
やがて愛撫しながら唇は胸まで到達すると、既にツンと誇張している乳首を口内に含み、おいしいキャンディでも舐めるかのように舌で転がし、あまがみし、その甘い刺激がつくしを更に喘がせた。

「あぁぁん」

こんなのはじめて。

すご…い、ゾクゾクして逃げ出したいのに、もっとしてほしい。

そんなあたしの気持ちが伝わったのか、専務の唇と舌は更にあたしの中心へと向かって攻め込んでくる。

「やだっ、そんな!はずか…しぃ」

専務の舌はあたしの秘部をかきわけまだ誰も侵入した事のない未開の部分を侵略しようと攻め始めた。

「ぁあん、あっ、あん……見ないでぇ」

つくしは脚を閉じたくても司に跨がられている為それも出来ず、入らない力を振り絞り秘部を守ろうと、両手を伸ばすと届いたのは司の頭部だった。頭部に触れると秘部は更に激しく攻められ、つくしは引き離そうとしていたはずの司のクセの強い頭髪の中に指を滑らせ必死に快感から逃げようとみ悶えた。そんなつくしの仕草が司には、もっと…もっと…と言われているように感じられ、司はつくしの中にその長く整えられた指を一本挿入した。一層つくしの喘ぐ声は艶やかに色気がまし、乱れ始めた姿は何ともかわいかった。

「もう、我慢すんな」

「あっあんん」

「だっめぇ、あぁん」

「ダメじゃないだろ?」

ニヤリと口角をあげ、司は指をもう一本増やした。
その指は膣内をぐちゃぐちゃにかき混ぜ、感じる刺激はつくしの全身に伝わり、脚から感覚を失うほど痺れさせた。

「痺れちゃうぅ」

「感じろ!そのまま俺にまかせろ!」

ダ、ダメだよ。専務、そんな色気たっぷりに誘惑しないで下さい。流されちゃうじゃないですか。

「イヤ……あっあっあたし、処女なんですぅー!」

つくしは大声で叫んだ。



*****

「ハァハァハァハァ」

つくしが目を覚ますと、暖かい身体に抱き寄せられるように、心地よい強さで包まれていた。

顔を見なくてもわかる。

今あたしを抱き締めているのが誰なのか。

この香りは……専務しかいないから。

それに今まで……あれ?

あたし服着てる。しかもこれあたしのブラウスだもん?
徐々に状況がのみこめはじめたが、つくしは司の逞しい胸元でぎゅっと抱きしめられる体制で眠っている為まわりがよく見えない。起き上がろうにも眠っているにもかかわらず、抱きしめるその力はきつく、振りほどけそうもない。
第一今顔をあわせるなんてつくしには出来なかった。

「なんて夢みちゃったのよあたしぃ。」

つくしは司の胸元に顔を埋めて呟いた為、恥ずかしくてさくらんぼのように赤らめた顔は見られなかったが、同じく顔を赤らめている司も又、顔を見られまいと気づかれない強弱でつくしを抱きしめていた。

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恋説 ~14~ 

俺はこいつを抱えて店を出ると、店の前に待たせていたタクシーにすぐさま乗り込んだ。
タクシーの運転手も酔い潰れた女を抱えて再び乗り込んできた俺に驚いた様子を見せたが、何も言わずに俺の伝えた場所に向って車を走らせた。

静かな車内で俺は手持ちぶたさから膝の上で眠っているこいつの寝顔を眺めていた。いつもはすっぴんみてぇな化粧だってのに、今日はまだパーティの名残が残る華やかだったアイメイク。……そう、“だった”なんだ。既にメイク直しでは済まないだろうレベルに崩れたその顔は、アイラインがにじみ、ファンデーションも鼻のあたりが剥げちまってるし、口紅もとれてこいつ本来の唇があらわれている。

「ヒデー顔だな。」

しかも酒くせー。そう思うのに、なんかかわいく見えちまうのは、松岡が言うように恋しちまったからってことなのか?

俺はこいつの頬に手を添え、口を半開きにして無防備に眠る牧野の唇に親指を這わせた。

するとそれに反応して牧野はんんーっと小さく息を漏らしながら顔をイヤイヤとでもするようにゆっくりとくねらせた。

なんだよこいつ…反則だろが。今までどこにこんな色気隠し持ってたんだよ。
キスしたい衝動にかられた俺は、牧野の顔をじーっくりと見つめながら吸い込まれるように顔を近づけ、あと一歩のところで胸ポケットにしまっているスマートフォンがブルブルと振動を始めた。
その振動でふと我に返り、今自分がしようとしていた事が途端に恥ずかしくなった。それまで牧野の頬に添えていた手で自らの口元を隠すように覆い、慌ててもう片方の手でスマートフォンを取り出した。

『新着メール1件』

差出人が登録していないところからで不審に思ったが、アドレスからやばいやつではないと判断してメールを開いた。
すると、差出人は先程逢った牧野のダチの松岡からで早速画像が添付されていた。

どれどれ…画面をスクロールして行くと、そこには見慣れた自分ではなく、俺自身見た事ない俺が映っていた。
俺、こんな顔できたのかよ…。

見れば見るほど自分らしくなく、照れくさくて恥ずかしくて画面を伏せ、でも又盗み見するように見て、恥ずかしくて伏せては又見るの繰り返し…。
あのダチこれも牧野に送ったのか?
牧野はこの写メを見たらどんな反応するんだろうな?

例え喜んでくれなくてもいい。
はずかしがってもいい。
でもよ、削除だけはすんじゃねぇぞ。

俺はこいつの頭を撫でながら、こいつに好かれたい。笑顔を向けてほしい。このままこいつをこの腕に閉じ込めておきたい。そう願っていた。


数十分後、タクシーは目的地に到着した。
人目を避けて地下駐車場に停車してもらうと、要人専用口から入ってエレベーターに乗り込み、俺は2時間近く前までいたこのフロアに戻って来た。
だが、あいつらと同じ部屋に泊まるなんて…出来るわけねぇ。
俺は押さえておいた隣のスウィートルームのキーを解除して奥の寝室に行き、キングサイズのベッドに優しくこいつをおろした。





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恋説 ~13~ 

「どうするつもり?…んん…そんなん俺にもわかんねえわ。」

「えっ…」

これが憧れのF4 のリーダーなの???
わかんねぇわって、こっちがわかんないわよ。
道明寺司という男は砂上の楼閣だったの???
優紀の落胆を余所に司は言葉をつなげた。

「けどよ、こいつが今こんなんなってんの、俺のせいだろ?」

あれ?そう!そうなのよ!!
優紀はコクンと頷いた。

「俺はこいつにはじっくり聞きてえ事あっし、誤解も解かなきゃなんねぇ。」

「誤解ですか?」

「ああ、こいつからなんか聞いたか?」

その問いに、優紀は何が誤解かはわからなかったが、つくしがショックを受けていたとしたら3Pの事以外なかった。だがまさか初対面の相手に3Pなんて言葉恥ずかしくて発する事が出来なかった。

「えっと…ハハッ…そのぉ…複数の男女がその…」

「やっぱりな。こいつ、俺もあいつらとセックスすると勘違いして飛び出してったんだろ?」

「はい!えっ!?誤解なんですか!?」

「あったりめぇだろ?そんな他人と共有するとかって気持ち悪い事できっかよ。」

今肩の力が抜けたのが分かった。
なんなのこの拍子抜けは。
優紀は酔いつぶれているつくしに視線を走らせた。

あんた、こんなに飲む必要なかったみたいだよ。
先程までの大虎ぶりを思いだし、優紀は吹き出してしまった。

「クスクスクス…つくし、喜ぶと思います。でもまさか、フフッ…その誤解を解くためだけにわざわざつくしを探してらしたんですか?」

「ああ。何度書けてもケータイ繋がんねぇし、普通飛び出してったって聞いたら心配すっだろ?」

「クスッ…そうですね。普通心配はしますよね。
でも64件も電話掛け続けたり、家にまで行ったり、酔った相手を迎えになんて来ませんよ。」

優紀の言葉に司はその切れ長な目を見開いた

「恋、してるんですね」

“恋”?そんなもん俺の辞書には必要ない言葉だったから意味すらわかんなかった。

「んなわけ…」

だが確かに俺、なんで汗かいてまで牧野の事必死こいて探してんだ?
明日オフィスで言えば言いだけの事だ。
それに誤解されたってかまわねぇじゃねぇかよ?
今更ながらに己の行動に笑えて来る。

なんなんだこの感覚。

笑えるのに、俺らしくねぇってのに、なんか悪くないなって思える。



俺…恋ってやつ、してるのか?

とうとうしちまったのかよ…俺。

よくわかんねぇ。けど、これだけははっきりと断言出来る。

「じゃあ、責任とんねえとだろ?それに…今日は帰したくねえ。それじゃ理由になんねえか?」

な、な、な……なんなの!!
『帰したくねぇ』なんて反則でしょ!?もうーお、つくしはなんでこんなオイシイ場面に寝ちゃってんのよ?あんたの人生史上最大最重要の一大事なのよ!?

「いえ!なってます。はい。…でも…あの、つくしはずっと勉強ばかりして来て。…そのぉ…恋愛経験がないんです。だから遊びとかなら止めて下さい!」

この牧野のダチもさっきから興奮したかと思ったらマジな顔したりおもしれな。
つーか、俺チャラくねえから。

「…フッ遊びじゃなきゃいいんだろ?」

そう言ってニヤリと微笑んだ司の表情からは自身がみなぎっていた。

「それって…」

“真剣”って事?

「約束する。」

そう言うと、司は眠っているつくしを抱きあげた。その姿が優紀にはキラキラと輝いて見えた。なぜなら完璧なまでのルックスで、愛おし気につくしを見つめるその眼差しが、普段媒体で見るどの道明寺司とも違っていて、優しくとろけそうだったから。
こんなカッコイイ人初めてみた。

思わずスマートフォンのカメラ機能でシャッターを切っていた。

カシャッ!

その耳障りな音に司が視線を走らせると、松岡が俺と牧野の写真を撮っていた。俺は写真を撮られるのが大嫌いだ。仕事で撮られるのも最低限しかうけねえし、プライベートなんてここ何年も撮ってねえ。それを隠し撮りするたぁこの女イイ度胸してんな。

「おい、何撮ってんだよ?」

いくら牧野のダチといえど文句を言って消去させるつもりだった。

「勝手にすみません。でもあまりにも絵になってて。へへッこれ、つくしにLINEで送るんです。折角の初お姫様抱っこなのに眠っちゃってますから。」

その言葉と松岡の目から、悪用する意図は全く感じられず、むしろどんな写真を撮ったのかみてみたくなった。

「俺にも」

「え?」

「俺にも送ってくれ。進のメモ、あれ俺の名刺だ。」

道明寺さんがこれ欲しいの?マジ?

「は、はい!」

優紀はつくしを抱えて颯爽と去っていく司を見送ると、ずっと手に握っていたメモ書きもとい、名刺の表側をまじまじと見た。

道明寺ホールディングス株式会社
専務取締役 道明寺 司

そこに書かれていたのはまぎれもなく本物の道明寺司の名前が書かれた名刺だった。
この名刺を喉から手が出るほど欲しがる会社員は世界中に数えきれない程いるだろう。それをこともあろうにメモ書きに使うなんて。

ありえない。

優紀は早速そこに書かれているアドレスへ画像を転送した。
ついでにアプリでキラキラの♡のフレームに加工してスタンプで盛って、それも一緒に送信した。
同じ画像をつくしにLINEで送信すると、司の名刺を失くさないようスマートフォンのケースに挟み帰る支度を始めた。
会計をするためにレジに行って驚いた。

「お会計は先に帰られたお連れの方がすましておいでです。」

いつの間に…。さすが道明寺さん。

つくし、やっぱり道明寺さんカッコよすぎだよ。

「がんばれ つくし!」





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永遠に…ともに…。 ~後編~ +その後の魂の行方~番外編~ 

類は進の言葉が一瞬理解できなかった。

数日前にみかけたばかりだというのに、司だけじゃなく牧野まで!?

「司の葬儀会場で牧野を見かけたんだけど。」

「そんなわけありません…あるわけないんです。姉は9月6日に亡くなりましたから。」

「6日!?」

「はい。俺も驚きました。ニュースで道明寺さんの訃報を知って…まさか同じ日に亡くなったなんてすごい驚きました。」

「そんな偶然あるわけ…」

「あるわけないですよね。…ホント…そうですよね。それにあれは偶然なんかじゃなかったと思います。」

「それどういう事?牧野はなんで亡くなったの?」

「心不全です。本当に突然でした。これからお話する事は類さんだからお話します。きっと類さんなら信じて下さると思うから。
俺、今は転勤で仙台に住んでて、あの日は出張でこっちに来ててここに泊まってたんです。俺はリビングで眠っていました。すると明け方何やら話し声が聞こえてきたんです。胸騒ぎっていうんでしょうか…ザワザワと胸のあたりがざわめいて、起きるには早い時間でしたが起きなければ後悔すると直感したんですよ。目を覚ましてみると、姉が誰もいないのにまるで誰かと会話してるように話していました。」



5時半に目覚めて朝食のお味噌汁を作っていると、照明を点けているはずの室内が急に暗くなった。
停電かと思ったと同時、いるはずのない、自分の人生で唯一愛した男が目の前に現れたのだ。
最後にあった10年前より歳を重ねているけれど、それがいい渋みを醸し出して相変わらずいい男である。
まだ自分は寝ぼけて夢でもみているのだろうか?でもそんなわけない。となるとこれは一体…

「何でここにいるのよ!?」

「最期にどうしてもおまえとの約束を果たしたくて来た」

「約束?」

「10年前、別れ際に交わしたろ?またねって。」

「うん。」

でもあれは……お互いこの手を離したら、きっともう二度と逢う事がないだろうとわかってたから。…だからさよならなんて言いたくなくて強がって『またね』って言っただけだよ。なのに…

「もうこれがおまえに逢えるマジで最期だから。…だから逢いに来た。」

「最期ってどういう意味?」

「俺、あとちょっとで死ぬんだ。」

その衝撃の告白とともに、それまではっきりと見えていた司の体がぼんやりとかすみ始めた。
今見ている事が常識ではあり得ないことだっていう事はつくしにもよくわかっていたが、直感でこれが夢でも幻想でもなくて現実に起きているのだと感じた。

その瞬間、つくしは自分でも驚くほど大胆に、そして素直になっていた。

「私も連れてって」

つくしは司を離すまいと、その消えそうな体に抱きつこうとしたが無情にも体は空をきり、そしてだんだんと遠ざかり始めた。

ダメ!ダメ!行かないで!これで最期なんて絶対にイヤッ!

必死に司を掴むべく両手を伸ばした。あとちょっと、あとちょっとで届く…でも司はそのつくしの手を苦悶に満ちた表情で見つめるだけで掴もうとはしてくれなかった。

なんで?なんでなのよ…つくしはそんな司に向って、あの別れからずっと想い続けてきた言葉をどうしても伝えたくて叫んだ。きっと同じ想いでいてくれるはずだから。

「あんたなら解るでしょ?ずっと…寂しかった。」

「おね…が…い」

ずっと意地っ張りだった彼女。
10年前の別れの時も無理して強がっているなんて解ってた。
あの時こんな風に素直になってくれてたら…

そう思ったら俺は彼女の手を掴み、引き寄せ、力いっぱい抱きしめてキスしてた。
この決断はつくしの家族や友人たちを悲しませるだろう。だが、俺にはつくしの気持ちが痛いくらいわかる。
俺もずっと寂しかったから。

俺の胸の中にすっぽりと収まったつくしがぎゅっと俺を抱きしめ返してくれてることがこんなにも幸せだなんてな…。

「やっと戻って来れた。ずっとね、ここが恋しかったの。」

「もう二度と離さねえぞ。」

そのまま俺を迎えに来た光に、つくしも共に包まれて彼女は予定外の死を遂げた。



***

「俺、姉が目の前で心臓止まったってのに何も出来ませんでした。
心肺蘇生をしなければいけない事はちゃんと理解していましたよ。でも…出来なかったんです。しちゃいけないような気がして。
例えしたとしても姉は戻って来てくれない。そう感じました。」

「進…」

類は進にかける言葉が見つからなかった。

「姉は最期の瞬間、少なくとも俺にはすごく幸せそうに見えました。それに、ぽわーっと光が見えて、消える瞬間、ほんの一瞬でしたが姉を抱きしめる道明寺さんが見えたんです。…ㇰㇲッ笑ってました。幸せだったんでしょうね。」

「それで、俺は何も出来ませんでした。でも、だんだんと冷静になって救急車を呼んで、死亡宣告を受けて、両親に連絡して、姉の死を悲しんでいる両親を見てたらこれでよかったのか?ってわかんなくなりました。俺が見たものは幻影だったんじゃないかと疑いかけた時、丁度道明寺さんの訃報を知ったんです。」

進の表情は泣いているのと笑っているのとまざったものだった。
心肺蘇生を試みなかった後悔と、これでよかったのだという狭間でこの先も悩み続ける事になるのかもしれない。
俺がその場にいたら、果たしてどうしていただろう。でもきっと、進と同じことをしたと思う。

「進、辛いな。でも俺はあの二人が笑ってたっていうならおまえの選択は間違ってなかったと思う。」




***

類は進から聞いた話を思い返していた。
他の人の話だったら笑い飛ばしていただろう。でもあの二人ならあり得ると思う。

それに、確かな事は離れた場所にいたはずの司とつくしの亡くなった時刻がとても近かった事だ。ただし司の場合、誰もいないところで息を引き取っていた為推定での時刻だったが、死斑も出ていなかった事から息を引き取って間もないと判断されていた。
きっとじゃなく、間違いなく二人は同じ時刻に息を引き取った。
類はそう確信した。

類はつくしのマンションを後にすると、急いで友人たちに連絡をとって道明寺邸を訪れた。
もう一人の親友の死を伝えるために。
随分と疎遠になってはいたが、みんなつくしの事が大好きだったから、進から聞いたあの朝二人に起きただろう事をみんなにも伝えたかった。


「類、みんなを集めてどうしたの?」

司の死により、その引継ぎで楓と椿は疲労困憊だった。
他のみんなも葬儀に参列するため何日も休んだ事から無理して今ここに集まっていた。

「類がどうしても集まって欲しいなんて珍しい事いうから来たけどよ、みんな多忙な身だし早いとこ話してくれ。」

「あぁ。今日は集まってくれてありがとう。まず単刀直入に言うけど、どうしてもこれを司の墓に一緒にいれて欲しくてそのお願いに来た。」

みんなが何?と伺う視線を類に向ける中、類は風呂敷包みをテーブルの上に置きその結び目をほどいた。

「それ、骨壺じゃない!」

「ああ。」

「おい、一体誰の骨だよ!?」

「これは牧野の骨だ。」

一瞬にして室内にピンと緊張が走った。

「牧野って、類悪い冗談はやめろよ!」

「そうですわ。その中に本当に骨が入っているのかは知りませんが、いくらなんでも先輩の名前を出すだなんて酷過ぎます!」



「こんな事冗談で言えるわけないだろ?牧野も亡くなったんだ。」

類の拳を握りしめて怒りに満ちた表情から、その場の全員がつくしの死が事実なのだと受け止めた。

だが、突然亡くなったと言われても到底信じられる事ではなかった。

「司が亡くなったあの日、牧野も亡くなったんだ。」

そうして類はみんなに進から聞いた全てを話して聞かせた。

最初こそ驚いた表情をみせていた全員が真剣に聞き、話し終えると類同様二人の最期の瞬間は進の妄想などではないだろうと確信し、そして一人で旅だったわけじゃない事に、少なからず救われた想いになった。



「司のお墓ね、先祖代々のお墓じゃないのよ。」

「何で?道明寺の当主は代々そこに眠っているはずだろ?」

「えぇそうね。でも司が生前作り終えてたのよ。遺言だから聞かないわけにいかないでしょ。しかもね、つくしちゃんが亡くなった時に、何としても分骨してもらって一緒にして欲しい。そこは二人だけで先祖になんて邪魔されたくないから頼むな。なんて書いてあったのよ。だいたいあいつ断りもなくつくしちゃんの名前まで墓石に掘って…。つくしちゃんが既婚者だったらって考えなかったのかしらね?ホントバカよ。
ㇰㇲ…でもね、なんか意地らしいじゃない。」

「えぇ、そうですね。」

「うん、司らしい。」

「にしても、スッゲー俺様だな。」

「結局分骨どころか骨全部一緒にしてやれるって事だろ?」

「ああ。あいつの高笑いが聞こえてくる気がするよ。」

その後二人の遺骨は司のたっての願い通り共に埋葬された。

道明寺司の名前の隣には、きちんと道明寺つくしと名前を刻まれて。

永遠に…ともに…。






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